2021年 8月9日(山の日)

オンライン大会を

開催しました!

恒例の山の日のやまびこ大会を、昨年に続いてオンラインで行いました。
台風接近の悪天候やコロナ感染の心配もどこ吹く風、北から西から49人が 参加、
15:00~20:00、句会や懇親会で楽しいひとときを過ごしました。
3人の選者による入選句をご覧ください。

入選句「呑気」吉崎柳歩選(鈴鹿川柳会)

●秀逸
1 今日の日を肯定しては発泡酒 /美智子
2 コロナ禍にゆるく川柳詠んでます /るーしー
3 ケセラセラ方式でまだ生きてます /正 子
4 命守れと言うニュース見る肘枕 /正
5 不公平御隠居様は夫だけ /美智子
6 親掛かり給料全てお小遣い /るーしー
7 自慢したいじめの過去がブーメラン /武 彦
8 古稀もすぎドンキホーテの呑気旅 /寅 歳
9 隣室の怒れる妻にラインする /B 人
10 積読を崩しただけで今日も暮れ /み ち
11 先送りする前提の生返事 /ひとみ
12 なあんにも考えないで孫もいる /み ち
13 迷信を信じる事にした月夜 /一 美
14 喧騒脱出山奥露天風呂 /一 歩
15 ウイルスに尾行されてるはしご酒 /正 子
16 世話焼きが居ると呑気になる家族 /るーしー
17 知事選に負けてよかった今呑気 /さちを
18 かき氷溶けてアドレナリンも出ず /団 石
19 急いでも急がなくても日は暮れる /一 美
20 スイッチを入れたら勝負ついていた /博
21 スーダラ節がウイルスに通じない /恒 坊
22 兄嫁が呑気実家を近くする /たかこ
23 アドバルーンとても呑気に見えますが /たかこ
24 アラームは無しで気ままに目を覚ます /ゆう子
25 合言葉こんなもんさと日が暮れる /美智子
26 短気は損気ノンキには適わない /団 扇
27 呑気でいいねで始まる妻の乱 /茂 雄
28 その内に運も向くさとする昼寝 /さちを
29 年金は余り 自粛も悪くない /哲 男
30 かあさんの呑気に家族慣らされる /わこう
31 マンネリに浸るノルマのない暮らし /薫
32 霊感の強い女とする二度寝 /しんのすけ
33 晩酌は妻の呑気が隠し味 /みいこ
34 幸せはこんなものかと大欠伸 /薫
35 作戦は呑気な嫁という仮面 /めぐみ
36 スマホOFFやっと呑気を取り戻す /のりこ
37 温泉につかり呑気をチャージする /橋倉久美子
38 温泉に浸かり眺める活火山 /とくろう
39 バス停で行ってしまったバスを待つ /団 石
40 面倒なことは明後日考える /みいこ

●五客
1 古民家の暮らし昭和の風と棲む /澪
2 そりゃあもう干し椎茸はのんきです/こうか(ユーモア賞)
3 あやとりの橋ができたら会いにゆく /京
4 ワクチンはいつか余った頃に打つ /博
5 思ってたほどは呑気でない老後 /橋倉久美子
●三才
人 呑気にはしていられない救助隊 /竹 里
地  転がしておけば大きくなるカボチャ /橋倉久美子
天  呑気ではない人もする魚釣り /竹 里
●軸吟
終活を済ませてバスを待っている /柳 歩

【選評】
「ユーモア賞」 そりゃあもう干し椎茸はのんきです 
上5の「そりゃあもう」が意表を突く。のんきな雰囲気を漂わせる食物はいろいろあるだろうが、保存食の「干し椎茸」を思いつかれたのがお手柄。そう言われてみると、干し椎茸はフットワークも軽そうで、ピッタリだったかも。
「人」 呑気にはしていられない救助隊
当たり前といえば当たり前の川柳。救助隊と言えども人の子。睡眠中だろうと入浴中であろうと、いったん事あればすぐに駆けつけて救助にあたらねばならない。そうして多くの人達が救われてきた。普段の訓練も欠かせない。人命救助という気高い精神を備えた人でないと務まらぬ。当たり前に見えて当たり前では済ませられない川柳は佳い川柳である。
「地」 転がしておけば大きくなるカボチャ
呑気なのはカボチャとも作者とも取れる作品。事実は知らないが、カボチャの雰囲気からしてこの句の通りなのではと思った。それで念のためネットで調べたのだが、果たしてこの句の通り、一度植えたら勝手に育つものらしい。そう言えば戦後育ちの我々も、みんな勝手に大きくなったカボチャみたいなものなのかな?
「天」 呑気ではない人もする魚釣り
作者はたぶん私と同じで、魚釣りはしない人だと思う。魚釣りをする人なら最初から、暇つぶしなんかじゃない、と自負していらっしゃるので、こんな句は作られないだろう。太公望は太公望で、逆に川柳なんか暇人がやるものと思っているかも知れない。ひょっとして「釣りなんかやって呑気だなあ」と誰かに言われて、憤慨して閃いた作品かも。

【総括】
「呑気」という題なら、関東に限らず関西でも2句に1句は「呑気」を読み込まずに作句される方が多いのではないか? その場合「題意」との距離感が問題となる。句の仕立てによっては、「題に凭れている=題を強く意識しないと呑気が汲み取れない」ことになる。これは、相対的に関東の選者が甘く、関西の選者は厳しいのかも知れない。私も、どちらかというと関西の選者である。いったん題を離れて、「なるほど呑気だ」と感じ取れない句は没にせざるを得なかった。(柳 歩)

入選句「角度」真島久美子選

(卑弥呼の里川柳会)

●秀逸
1 星を見る角度で君を見ていた日 /めぐみ
2 ノーサイド真っ平らな空は喜劇 /京
3 起立礼着席までに込めた意思 /孝 子
4 頑固者急所は臍の斜め上 /信 雄
5 革命だ 少女口角の鋭く /澪
6 一瞬の目をローアングルが捉え /みいこ
7 分度器の世話にはならぬ台所 /団 扇
8 反批判 キミは鋭角すぎないか /哲 男
9 有罪な視線を映す三面鏡 /しんのすけ
10 鈍角の覚悟はあるか注射針 /良 彦
11 全方位見渡すための天守閣 /柳 歩
12 モナリザの自信アングル気にしない /わこう
13 人妻が斜めにかぶる夏帽子 /恒 坊
14 酔うほどに後ろ姿が深くなり /俊 亮
15 ベクトルは一緒だ だから別れよう /団 石
16 スイッチバックして天国へ昇る /薫
17 絶妙な角度で女将お辞儀する /ゆう子
18 打ち解ける角度に首がしなだれる /たかこ
19 なだらかなカーブで黄昏れる日本 /武 彦
20 斜に構え孤独を愛すスナフキン /とくろう
21 お手本を見せる謝罪の指南役 /武 彦
22 推し活の流儀陰から日向から /ひとみ
23 三角錐のねじれの位置を夢に見る /団 扇
24 ハンカチは正方形に畳むもの /信 雄
25 根性のせいか片減りスニーカー /み ち
26 見られたい角度に並ぶ胡蝶蘭 /たかこ
27 大概になさいポテトチップスぐろーばる /こうか
28 鋭角の先には美しい地獄 /智 史
29 土下座した肩に二本の手が伸びる /孝 子
30 真っ直ぐな雨は母さんの仕業だ /しんのすけ
31 ソフトクリームほどの角度が崩れない /良 彦
32 分からない人にはパイルドライバー /団 石
33 そうめんを流す過不足ない傾斜 /柳 歩
34 向き1度変えたいドミノ牌ひとつ /のりこ
35 寝仏の体で見上げる裏事情 /ひとみ
36 斜め百十二度泣いていいですか /しんのすけ
37 君と言う山は角度があり過ぎる /寅 歳
38 鋭角はヒステリックな曲が好き /一 美
39 おひさまは去年と同じ道にいる /俊 亮
40 ビクターの犬はおそらく中耳炎 /芳 夫(ユーモア賞)
●五客
1 偏向のプリズム 五輪ばかり責め /哲 男
2 純愛を撃ち抜く美しい角度 /智 史
3 太刀持ちの太刀の角度は揺るがない /恒 坊
4 ジェンガ抜く記念の傷をつけながら  /めぐみ
5 友が逝く雨は斜めに射し込んで   /京
●三才
人 光さす角度で語る仁王像 /和 枝
地  夕ぐれの孤独はしゃがむかたちして /こうか
天  ピザを切る角度を告げる裁判所 /良 彦
●軸
既視感へ首の角度を変えられる /真島久美子

【選評】
「ユーモア賞」 ビクターの犬はおそらく中耳炎
中耳炎を経験した人は分かると思うのですが、痛い方の耳側についつい顔が傾きますね。その角度と、あの犬の顔の角度が重なりました。日本ビクターのトレードマークになっている、蓄音機を前に耳を傾ける犬の絵が出てきたので驚きました。
「人」 光さす角度で語る仁王像
森中惠美子先生の句の「旅ひとり仁王の口を真似てみる」を思い出しました。下から見ると、光によって余計に顔が変わって見えますね。仁王の口を真似た惠美子先生と、仁王と語り合った作者と。仁王を見上げる角度、そこに射す光の角度。素晴らしい見つけだと思いました。
「地」 夕ぐれの孤独はしゃがむかたちして
これは夕陽が作りあげた自分の影の角度を詠まれていると感じました。たった一つの自分の影から、たった一人の自分の存在が浮かび上がってきます。その影が動くときが「覚悟」であるとか「諦め」であるとか、それぞれの気持ちが「動く瞬間」だと思います。
「天」 ピザを切る角度を告げる裁判所
この句は「家族」を詠んだもので、私達は一つ屋根の下という「裁判所」で暮らしているのかもしれません。お兄ちゃんのピザが大きいとか妹に譲りなさいとか、我が家の裁判官も平等ではありません。それでも平等であろうとする家族の姿、人間の姿に胸がときめきました。

【総括】
オンラインの大会を初めて経験させていただきました。句の素晴らしさもさることながら、参加された皆さん、主催されたやまびこの皆さんの姿勢に感動するばかり。あまりの丁寧さに、とても真似できないと怖じ気づいています。選句ですが、形成された句よりも解放された句を意識して選びました。みなさんが私を信じて投句してくださっているので「これは角度なの?」という疑問よりも「角度を探し出す」という気持ちで選句しました。ありがとうございました。 (久美子)

入選句「古き良き時代」永井天晴選(川柳やまびこ)

●秀逸
1 風鈴とウチワで足りた夏の夜 /寛 良
2 口ずさむ歌が生き続ける昭和 /竹 里
3 虫眼鏡なしでも見えた預金利子 /橋倉久美子
4 膝に乗せよんだ絵本のあの温さ /春 菜
5 美しい過去を犠牲にする豊か /智 史
6 遠巻きに絵だけ見ていた紙芝居 /芳 夫
7 お陽さまの匂いトマトにあったなあ /正 子
8 あの頃の君は一途で細かった /一 歩(ユーモア賞)
9 少年の憧れだった鬼ヤンマ /柳 歩
10 あなただけいれば良かった若かった /のりこ
11 ひょうたん島のままで漂流しています /恒 坊
12 保ってた人と自然のディスタンス /みいこ
13 まず父の酒のつまみが出た夕餉 /たかこ
14 猿股も家屋も風が良く通り /博
15 初恋の想い脳裏にまだ残り /春 菜
16 弁当の隅に野望を詰めていた /めぐみ
17 10円を握り夢中で紙芝居 /一 美
18 戦時下へ男子誕生六人目 /信 雄
19 父さんが返すちゃぶ台今はない /正
20 オンのままテストパターンミュージック /団 扇
21 貧しかったがゆえに抱いていた大志 /哲 男
22 堂々と吸えたタバコで輪をつくり /茂 雄
23 父でいる父を愛した母がいた /孝 子
24 駄菓子屋でお金の価値を学んでた /千代子
25 颯爽とミニスカートの初デート /ゆう子
26 マドンナを目で追っていたにきび面 /さちを
27 貧しさにお互い様で生き抜いた /澪
28 母の手で揃いの服の四姉妹 /わこう
29 モノクロの紅白仕切る宮田輝 /団 扇
30 貸し借りは味噌と醤油に二十円 /信 雄
31 出会わずに棲み分けていた人とクマ /武 彦
32 大黒柱一人で足りた良き昭和 /寛 良
33 万句合わせに興じた江戸のハイセンス /柳 歩
34 黒電話母の関所に燃える恋 /小 鈴
35 コンビニはないがお隣さんがいた /正
36 嘘じゃないってばとジュース色の舌 /こうか
37 再生は自然に任せられたゴミ /たかこ
38 古きよき時代 女が弱かった /哲 男
39 恋文は焚火の煙にして嫁ぎ /美智子
40 孤独死はゼロ回覧板回る /団 石
●五客
1 捨てそびれた二十歳のころの一欠片 /み ち
2 路地裏はカンバス ピカソがいっぱい /澪
3 西日射すアグネス・ラムのポスターに /真島久美子
4 給料の厚みで妻に敬われ  /水無月
5 辞書めくる指から森が拡がった /京
●三才
人 介護の手心配いらぬ大家族 /寛 良
地  さよならは十円玉の落ちる音 /京
天  子沢山スイカの浮いた二槽式 /ひとみ
●軸
夜行列車舟木一夫と終えた旅 /天 晴

【選評】
「ユーモア賞」 あの頃の君は一途で細かった
クスッと笑えるのがいい。さりげなく意表をつかれた楽しさがあります。「君は一途で若かった」であればただの報告句です。下5勝負で今の奥さんの結婚前と結婚後の姿を連想したのは私だけではないでしょう。
「人」 介護の手心配いらぬ大家族

今は金さえあればすぐに病院や施設に預けてしまう人も少なくありません。昔は3世代同居も多く、かわりばんこにお年寄りの面倒を看るのは普通でした。難しい言葉は一つも使われていませんが、温かい人情味が伝わって、深いドラマを感じさせる句でした。障害1級の娘を持つ私自身、ジ~ンと胸を打たれました。
「地」 さよならは十円玉の落ちる音
 
公衆電話ボックスが懐かしいです。話し足りないのに、無情にも10円玉が落ちる音とともに切れてしまった切ない余情が伝わってきます。あの不便さも現代の便利さよりも良かったと思えます。「さよならは」の「は」は、迷いがない時には「は」が生きるという見本のような川柳です。
「天」 子沢山スイカの浮いた二層式
昔は丸ごと西瓜を冷やす冷蔵庫などありません。川だったり、井戸だったりでしたが、現代の家庭ではほとんど見かけない二層式洗濯機に水を張って冷やしている光景が目に浮かんできます。大家族を取り仕切っている肝っ玉母さんが連想できます。若いひとみさんの作品で驚きました。子育ての時は苦労の連続だと思いますが、大人になった時にこの兄弟の絆が深まって、泣いたり笑ったりしている様子が浮かぶような楽しい川柳で、「天」に抜擢しました。

【総括】
人生経験豊富な方々の喜怒哀楽が表されていて、順位をつけるのが惜しいと思いました。レベルの高いいい作品に会えて、選が大変でした。たとえ入選が叶わなくても、句集などお作りになる時には入れてほしいと思う句が沢山ありました。
大会は競吟ですので、報告、説明に終わらずにそこに川柳味を入れてください。私の選句の仕方は、まず「川柳味があるか、ないか」です。この大きな笊の目をくぐった句の中から細かく選別していきます。

今起こっていることが、何年後かにはもう古くなっているでしょう。そんな時に古き良き時代を懐かしんでみるのもいいことだと思い、題としました。 (天 晴)

2021年 4月17日

オンライン春の句会を

開催しました



 15:00~17:30に句会。課題は「我」「田」「引」「水」。各題1句ずつ(1人4句)提出したものを、吉崎柳歩さん(鈴鹿川柳会)、真島久美子さん(卑弥呼の里川柳会)のお二人に共選していただきました。よい句にたくさん出会えました。参加者は全国から42人。
18:00~20:00は自由参加の懇親会。少人数の小部屋に分かれ、ミュートを外して会話を楽しみました。

入選句「我」柳歩選

五客

1 我の強さ隠しきれない百合子さん/たかこ
2 二本目になるとワタシがオレになる/孔亮
3 花のパリ我が家と同じ花が咲く/和枝
4 我を通すために真っ赤な薔薇でいる/小鈴
5 タイムラプス我が人生の走馬灯/B人

人 我を張った分だけ下げにくい頭 /竹里
地  自己中と叱られようが我は我/牧人
天  ためらわず我が道を行くハッシュタグ /薫

【選後感】

選句にいちばん苦労した課題「我」だった。「我」に限らないが、必要以上の深読みは避けて、自然体で句意を読み取るように努めた。

【人】誰でも我を張ってしまうことはある。苦い経験から学ぶ人は成長する。心理的アプローチがいい。

【地】人は誰でも自分が一番正しいと思うもの。選者もこうでないと務まらない? 開き直りがいい。

【天】自分の信念に自信を持っているということ。ネット社会という時流をうまく取り入れている。

入選句「我」久美子選

五客
1 偉そうな人だな 昴・マイウエイ/芳夫
2 タイムラプス我が人生の走馬灯/B人
3 我儘を言わぬまま狼果てる/あやめ
4 我を通すために真っ赤な薔薇でいる/小鈴
5 我が道を標す生まれたての雪/恒坊

人 二人称立たぬ玉子と向き合って/京
地  私の下でもんどり打つ私/めぐみ
天  我先に逃げると吊り橋が揺れる/柳歩
 

【選後感】 

【人】「二人称」なら「我」ではないとも取れるが、向き合っているのは無精卵ではないかと思う。作者は二人称と言っているが、これほど孤独を感じた句はなかった。立たない卵を立てようともがいている独りが切ない。 

【地】「飛び上がって回転」この「もんどり」が苦しみの中でも笑って見せているピエロを見ているようだった。句の最初と最後は「私」という漢字で、これは視覚的にも閉じ込められた感があり魅力的だった。 

【天】追いかける側よりも逃げる側の方が絶対的に「必死」。人間の本質を突いた句だと思う。この吊り橋を揺らさないように、人は守るものをたくさん持ちたがるのではないだろうか。 

入選句「田」柳歩選

五客 
1 美しい棚田 祖父母の腰曲がる/天晴
2 丹田に笑い袋を貼り付ける/恒坊
3 田植え時ですとブラームスのタクト/澪
4 田の神が嘆くお米の消費量/信雄
5 忘れない案山子の頃に見た花火/めぐみ

三才
人 田に水が満ちて蛙の恋の歌/牧人
地  遺された田んぼ一枚持て余す/たかこ
天  アメンボもオタマジャクシもいた田んぼ/竹里

【選後感】 

「丹田」の語源は丹薬(不老長寿の薬)を栽培する田畑とあるが、現代ではその意味を失っているので「字結び」臭いのだが今回は良しとした。 

【人】なんと言っても句姿がいい。蛙の歌が聞こえて来そう。「恋の歌」だと断定したところもいい。 

【地】現代ではすっかり「負の遺産」になってしまった田んぼ。「田んぼ一枚」の「一枚」が効果的。 

【天】言いたいことは「今はいない」ということ。近所の田んぼはジャンボタニシに席巻されている。 

入選句「田」久美子選

五客 
1 遺された田んぼ一枚持て余す/たかこ
2 田植えする腰の角度で打つメール/孔亮
3 美しい棚田 祖父母の腰曲がる/天晴
4 田植え時ですとブラームスのタクト/澪
5 田園に死なず挽歌を歌い継ぐ/千代子

三才
人 そんなにも都会はいいか なあ案山子/団石
地  土に生き背に田の字の一つ紋/一
天  仕方なかんべさ チャイナに売る田んぼ/哲男

 

【選後感】 

人】優しく語りかける口調に参ってしまった。故郷で子供の帰りをただひたすらに待って、春夏秋冬を越えてゆく待つ側の寂しさが伝わる。 

【地】句姿が一番安定していた。土に生きるとはこういうことなのかと、なにか「覚悟」のようなものも感じるし、とても太い芯のある句だと思う。 

【天】「仕方なかよね~」と佐賀弁で返したくなった。方言を使った句は大阪弁が一番多いと思うのだが、個性があってとても好きだ。田舎の田んぼを買ってくれるお金持ちはチャイナにしかいないのかもしれない。 

入選句「引」柳歩選

五客 
1 ちょっとだけ引いて油断をさせる敵/たかこ
2 税金を引ける程度のお給料/秀斗
3 引率の前に下見に行く教師/竹里
4 引き際をずっと探している軍手/恒坊
5 喜劇だと思う潮時だと思う/(真島)久美子

三才
人 草引きをするとアドレナリンが出る/(橋倉)久美子
地  直ぐに引く大成しない押し相撲/とくろう
天  引き際がいいと最後に褒められる/一歩

【選後感】

私が選句をする場合、「おそらくこういう句意だろう」と思っても、確信が持てなければ上位では採れない。秀逸の止め、秀逸9などがそうだった。 

【人】始めてしまうと途中で止めることができないのはアドレナリンのせいだったのか? 納得。 

【地】押し相撲で横綱になれたのは北勝海ぐらいのものか? 何事も「徹する」ことは難しい。 

【天】相撲に限らないが栃錦は優勝した翌場所二連敗したら引退した。実績があることが前提だけどね。

入選句「引」久美子選

五客 
1 引っ張れば伸びると思うなよ 女/団石
2 線引きのきわでプライド首上げる/正子
3 引き際をずっと探している軍手/恒坊
4 引っ張ると尻尾が二本出るのです/良彦
5 玄関は引戸がいいな人が好き/芳夫

三才
人 釣り糸の先がくすぐったくて春/のりこ
地  草引きをするとアドレナリンが出る/(橋倉)久美子
天  不確かな水の輪を描くテンゴング/京
 

【選後感】 

人】釣れていない、糸も緩んでいるかもしれない。それでも、ただ釣り糸を垂れている私を、春だけが見ているという構図が浮かんだ。「くすぐったい」は、風がささやく自分への褒め言葉なのだろう。 

【地】「草引き」には根っこからザクザク抜ける快感がある。夢中になって時間が過ぎることも忘れてしまい、気付いたときにはめちゃくちゃ日焼けしてるという、あの魔法は「アドレナリン」だったのかと納得した。 

【天】ボクサーの引退をテレビで見た。あのゴングの音によって空気が震えるという空気の動きを感じた。ボクサーにとっては、この「水の輪」は宇宙よりもはるかに広い輪で、自分の人生全てに広がっていく水紋だと感じた。「不確か」なのは、まだ自分の中に迷いや燃え尽きていない何かがあるのかもしれない。 

入選句「水」柳歩選

五客 
1 沸点と氷点揺れる恋心/孝子
2 生ビールこれが私の力水/孔亮
3 手のひらでそーっと包む石清水/茂雄
4 水族館数で勝負をする水母/団扇
5 休みたいときには水になるクラゲ/(橋倉)久美子

三才
人 満々と水をたたえる地震国/千代子
地  わさび田の清き流れのような僕/とくろう
天  水切りの石を何度も弾く水/竹里

【選後感】 

いちばん楽しく選句できた課題「水」だった。秀逸1の「水と油」は対語が同格となっているため鈴鹿では入選にはできない。夏の大会ではご留意を! 

【人】世界一水に恵まれた我が国は、世界一の地震大国でもある。明と暗を並べて自覚を促している? 

【地】解りやすい直喩の句。図々しい句。普通の神経では詠めない句。面白い川柳である。 

【天】男の子なら経験があろう。誰が見ても石が主役のはずだが、水を主役にさせたところが良かった。 

入選句「水」久美子選

五客 
1 休みたいときには水になるクラゲ/(橋倉)久美子
2 タンポポとさくらの畔に水を引く/一歩
3 洗面器の海で溺れたことがある/柳歩
4 死に水にジャックダニエル混ぜてくれ/恒坊
5 赦すのだ私だって濁り水/めぐみ

三才
人 誰か泣いたのかネットの水溜り/澪
地  出来レースだった水面下のクジラ/団石
天  一滴をたらし包丁研ぎあげる/みち

【選後感】 

【人】SNSで繰り返される誹謗中傷の嵐。相手が見えない恐ろしさと同時に、それで人の命が奪われてしまうという恐怖の世界に私達は生きている。「誰か泣いたのか」とは思っても、その水たまりをどうにかしようなんてとても思えない無力を詠んだ句だと思う。 

【地】「出来レース」と「クジラ」の取り合わせが面白い。これがなんのレースなのか、水面下でどんな話し合いが行われていたのか。小説のタイトルだったらどんな物語だろうかとワクワクする。 

【天】我が家は父が包丁を研ぐ係だったので、父が亡くなってからは切れない包丁ばかりになってしまった。庭で包丁を研ぐ父の背中が見えてくるようで、懐かしい気持ちになった。「一滴」と焦点を絞ったことで存在感のある句になっている。 

ユーモア賞/柳歩選

「水」わさび田の清き流れのような僕/とくろう


ユーモア賞/久美子選

「引」引き際がいいと最後に褒められる/一歩